平成25年4月1日付で歯周病学分野の3代目教授を拝命いたしました。私は本学歯学部を卒業後、岡山大学、米国コロンビア大学、広島大学で研鑽を積み、母校である九州大学に赴任しました。一貫して歯周病臨床と研究に従事してきましたが、近年ではとりわけ重度の歯周病によって影響を受ける糖尿病などの病態解明研究に力を入れてきました。すなわち、歯周病の治療や予防が全身の健康に繋がるとの概念に基づいた研究や臨床を展開したいと考えています。
歯周病は宿主―寄生体相互作用の結果、組織が炎症性に破壊されるとともに、疾患が重症化すると生体にとって軽微な慢性炎症として作用するやっかいな疾患です。このため、歯周病の病因を正しく理解し、病因論に基づいた治療法を確立するうえで、宿主(感染細菌)と局所の防御機構(あるいはそれに影響を及ぼす環境・遺伝要因など)のバランス、また全身の炎症反応などを詳細に観察したうえで診断を下し、個々の病態に応じたいわゆるオーダーメードの医療を展開する必要があります。また、究極の目標は失われた組織の再生です。再生能力も個々に異なることを理解したうえで、先進的なオーダーメード再生療法の開発が望まれます。 紀州の医師であり世界で初めて全身麻酔による手術を行った華岡青洲は「活物窮理」(個々に病態を異にする臨床像を注意深く観察することによって真理を究明すること)の概念を提唱したと言われます。歯周病の病態も個々に異なることからこの精神が重要になります。現代医学では注意深く病態を観察(あるいは把握)する上で、ベースとなる基礎分野の知識は必須です。これらの知識や技術を駆使して正確な病態把握に努める必要があります。歯周病学分野はこのような概念に基づいて"研究マインドを持った臨床家"を育成するとともに、高度先進的な歯周医療の開発を目指します。
当教室は平成29年に教室開講50周年を迎える伝統ある教室です。また、九州地区を中心に数多くの教授を輩出してきました。高度先進的な医療の開発と提供だけでなく、国内外の歯周病研究をリードする研究者・教育者の輩出にも努めてまいりたいと考えます。開講50周年を迎える平成29年春には日本歯周病学会学術大会を主催することも決まっております。本教室が歯周病に関する教育・研究・臨床のメッカとなるべく努力したいと考えています。
歯周病学分野 教授 西村 英紀